うさぎドロップについて「類似作品の比較」

うさぎドロップ (1) (FC (380))

うさぎドロップ (1) (FC (380))

先日とあるきっかけでうさぎドロップという漫画作品があることを知り、漫画喫茶に入ったときに既巻全部を読んだのだが非常に面白かった。そこでこの記事で他の類似作品とどのような点が違うのかを述べたい。後ほど機会があればこのうさぎドロップという作品自体の特徴についても一つ記事を割いて説明したいと思う。
なお、この記事はTogetter - 「漫画「うさぎドロップ」について、類似作品との比較と男性・女性視点を交えた考察」に集約されたつぶやきのまとめである。

うさぎドロップのあらすじ

うさぎドロップ - Wikipediaなどを参照。ただし、微妙なネタバレをふくんでいるためWikipediaの「あらすじ」の項目のみ引用する。

あらすじ
祖父の訃報で訪れた祖父の家で、30歳の独身男、ダイキチは一人の少女と出会う。その少女、りんは祖父の隠し子であった。望まれぬ子であったりんを施設に入れようと言う親族の意見に反発したダイキチは、りんを自分が引き取り育てると言った。こうして、不器用な男としっかり者の少女との共同生活が始まる。

うさぎドロップの一部・二部について

この作品は第一部(一巻〜四巻)と第二部(五巻〜)に大きくわかれているが、この記事で主に他と比較するのは第一部の方とする。

比較する作品

以下、順番に類似作品との比較を述べるが、基本的に上に書かれた作品ほどうさぎドロップと設定が似ている。

高杉さん家のおべんとう

高杉さん家のおべんとう 1

高杉さん家のおべんとう 1

柳原望さんの漫画作品。数年間音信不通だった従姉妹が事故死したことであとに残された娘と、唯一の肉親である主人公の男が生活してくストーリー。主人公はポスドク*1と呼ばれる不安定な地位であるものの、唯一の肉親だったことから中学生の女の子を引き取り共同生活を始める。
うさぎドロップと比較すると、非常に共通点が多いと言える。主人公が働いている男性・一緒に生活するのが身寄りをなくした少女・作品の中心テーマが全く異なる二者の共同生活であること・少女側が家事、特に料理に積極的であること*2、などである。両者の主な違いはうさぎドロップでは第一部でリンが幼稚園〜小学生低学年なのに対して高杉さん家のおべんとうが中学生なことである。うさぎドロップでは共同生活者がまだ非常に幼いためと、それに加えて普通のサラリーマンであることにより二人の生活は体力的・実際的に難しくそのあたりの苦しさをどのように克服するかが一つのテーマになっている。それに対して高杉さん家のおべんとうでは共同生活者が女子中学生であり、ある程度は自立していること、それに加えて主人公が大学職員でサラリーマンに比べてある程度生活の融通が効くため、実際的な生活上の厳しさはほとんど描写されず、言及も基本的にはない*3。その代わり、二十を過ぎてモラトリアム続行中のような男が女子中学生という未知の存在と生活していく上での精神的な難しさやそれを乗り越えていく過程の方に重点が置かれている。
まとめるならば、ほぼ他人同士だった二人が共同生活をしていく上で、その精神的な触れ合い・すり合わせにテーマを絞ったのが高杉さん家のおべんとうで、そういった精神的な交流もテーマに含んでいるものの三十路のサラリーマンが突然幼稚園児を引き取った場合の生活の変化・難しさにも重点をおいている作品がうさぎドロップである。

パパのいうことを聞きなさい!

パパのいうことを聞きなさい!  1 (スーパーダッシュ文庫)

パパのいうことを聞きなさい! 1 (スーパーダッシュ文庫)

迷い猫オーバーラン!の著者としても知られる松智洋ライトノベル作品。姉夫婦が新婚旅行中に飛行機事故で行方不明*4となってしまい、散り散りになりかけたその娘である三姉妹を、大学生の主人公が引き取り共同で生活しようとする話。ライトノベル作品にもかかわらず非常に現実をシビアに扱った作品で、大学生が三人の子供(中学生、小学生、幼稚園児)と生活する厳しさなどを真正面から扱った良作である。その無謀さを奇跡で乗り越えるのではなく、周囲に少しずつ理解してもらい、徐々に協力してもらう描写の細やかさには感服する。
主人公が男性、一人暮らししている、一緒に生活するのが小学生以下の少女などこちらも共通点が多い。また生活するということに対してリアリズムを重視して真面目に描写しているという意味でも非常に近い。唯一違うのは主人公がこの作品では大学生なのに対して、うさぎドロップが三十路のサラリーマンであることだ。パパのいうことを聞きなさい!では三人の世話をする上で単位が厳しくなる、大学生活が立ちいかなる、などの描写があるのに対してうさぎドロップでは主人公がバリバリ残業していた営業部から、定時で帰れる配送課?に転属してもらう。このあたり、同僚と一緒に働く必要があり、欠席が大きな迷惑になる会社勤めと欠席や単位を落としても単に自分の責任のみで収まる大学として大きく違う。ただ、それらの問題も周囲の理解や助力によりなんとかしていく展開も二つで共通しており、そういった著者が書こうとしている物という意味でもこの両作品は非常に似ていると言えるだろう。

愛してるぜベイベ

愛してるぜベイベ 1 (りぼんマスコットコミックス)

愛してるぜベイベ 1 (りぼんマスコットコミックス)

槙ようこの漫画作品。叔母が蒸発してしまい、後に残された従姉妹の女の子を主人公の男子高校生が世話をする話。りぼん作品らしく主人公の恋愛話にも重点が置かれている。連載時には幼稚園児ゆずゆの殺人的な可愛さに多くの人が魅了された。
うさぎドロップと比較すると、主人公の親類が突然いなくなったことによりその子供を引き取るというストーリーのアウトラインはかなり似ている。大きく違うのは、愛してるぜベイベの主人公が高校生で両親と同居している*5のに対して、うさぎドロップの主人公が三十路の独身で一人暮らししている男であるということである。また前者はより焦点を絞ってゆずゆと蒸発した叔母との関係や恋人心(こころ)との人間関係・感情を書いているのに対して、後者は主人公ダイキチが少女りんを引き取ったことによって変わった生活に主眼を置いて書かれている。

BLOOD ALONE

BLOOD ALONE(1) (イブニングKC)

BLOOD ALONE(1) (イブニングKC)

高野真之さんの漫画作品。吸血鬼が人間社会の闇に紛れている世界で、吸血鬼に最愛の姉を奪われた男クロエと父を殺され自身を吸血鬼にされた少女ミサキが生きていく話。こう書くとアクション一辺倒かと思われがちだが、実際には静かで穏やかな雰囲気と主人公クロエと少女ミサキの緩やかな触れ合いが主に描かれる*6
うさぎドロップと比較すると、少女の肉親が亡くなったことにより一緒に生活する点はよく似ている。また、主人公と少女二人の触れ合いをメインテーマにおいている点も同じだが、うさぎドロップが二人の現実的な生活にも焦点を置いているのに対して、BLOOD ALONEは世界観がファンタジーであることより二人の生活そのものには焦点を置いてない点が多少違う。

海街diary

海街diary 1 蝉時雨のやむ頃

海街diary 1 蝉時雨のやむ頃

吉田秋生による漫画作品。鎌倉に住む三姉妹が十五年以上会っていなかった父の葬式先で身の振り先がない異母妹を見つけ、一緒に生活し始める話。
うさぎドロップと比較すると、一巻冒頭の展開は非常に良く似ている。身の振り先がなく親戚が厄介者扱いするのに業を煮やし、自分が引き取るといって共同生活する展開はほぼ同じと行っていい。しかし、その共同生活に主眼が置かれるうさぎドロップに対して海街diaryは三+1姉妹のそれぞれの恋愛模様に主眼が置かれ、突然の共同生活そのものにはあまり焦点が置かれない。

こどものおもちゃ

こどものおもちゃ 1 (りぼんマスコットコミックス)

こどものおもちゃ 1 (りぼんマスコットコミックス)

小花美穂の代表作として知られる漫画作品。以下こどものおもちゃ*7うさぎドロップ*8両方のネタバレ対策のため反転。漫画の終盤、実は主人公が捨て子であり産みの母親が他にいることが発覚し、実の親を探し出して対面することとなる。
うさぎドロップでも第二部ではりんが生みの親と対面することになるが、生みの親と対面することによる育ての親との関係、対面以降子供がどちらの親と生活しようとするかなどの話は両者に共通する話となる。生みの親と対面した後でも育ての親と生活していくことを選択し、その上で育ての親とも和解する展開もまた両作品で同じだ。

だぁ!だぁ!だぁ!

新☆だぁ!だぁ!だぁ!(1) (講談社コミックスなかよし)

新☆だぁ!だぁ!だぁ!(1) (講談社コミックスなかよし)

川村美香の漫画作品。こちらも先ほどと同じく少女漫画だが、愛してるぜベイベが連載雑誌がりぼんなのに対してこちらはなかよしであり、そのあたりのカラーの違いも内容に影響している。あらすじとしては偶然二人きりで同居するようになった中学生の男子・女子二人が*9時空の歪に吸い込まれて地球に来てしまった宇宙人の幼児ルゥ(生後六ヶ月)(超能力を使えるが、見た目は地球人と同じ)を育てる話。
ただ、こちらは「なかよし」連載作品らしくたぶんにフィクション的で、幼児を育てることの苦労などに割かれた描写はほとんどなく、幼児ルゥは単なるトリックスター・トラブルメーカーとして描かれる。

変更履歴

2011/04/04 「高杉さん家のおべんとう」との比較を追記
2011/04/05 「BLOOD ALONE」との比較を追記

*1:学位は持っているものの大学教授・助手など定まった定職につけていない職員。作中でも説明されているが学位はあるもののアルバイトに等しい

*2:この高杉さん家のおべんとうでは特にその料理が話を展開する上でのメインツールとして使われる

*3:早朝に起きておべんとうを作るようになった、などの描写あるものの、それが生活の苦しさになったという描写はない

*4:作中で明言されていないものの死亡してるものとされる

*5:あれ、父親いなかったっけ?少なくとも母親はいたような・・・

*6:そういったこの作品の特徴を表す表現方法として、ページのコマの外が基本的に黒一色であることが挙げられる。一般的なコマの背景がほとんど白なのに対して背景全体を黒にすることで作品の雰囲気を静謐で落ち着いた雰囲気を常にまとわせている

*7:漫画連載後半のネタバレ

*8:こちらは第二部に関する重度のネタバレ

*9:少女漫画ではなぜか偶然二人の男女が同居することが多い