じいさんが死んだ話と人生最初の通夜・葬式の話 中編

次の日は十一時から葬式だった。


喪主である叔父がお坊さんを四人呼んだとかいう話*1を聞き流しながら始まるのを待っていた。葬式が始まるとお坊さんが入ってきてお経を読み始めて、通夜と同じく親族と参列者でまたお焼香を始めた。おそらくお坊さんが一人だとお経を読む+木魚だけなのだと思うが、今回は四人いたので1人目:お経+木魚、2人目:片手持ちの太鼓、三人目:シンバルみたいなの、四人目:チーンってなるやつ、の四人での演奏だった。親族席でそれを見ながら、さながらクラシックのカルテットだとぼうっと考えていた。

お焼香が終わるとお経もそれに併せて終了し、霊柩車での出棺となった。その前に棺桶に花を入れ、顔を確認するということで恐る恐る花を持って開かれた棺桶に近づき、祖父の顔を確認した。
棺桶の中に収まった祖父の体は、中学時代の記憶でも小さかった体がより一層小さく見えた。顔間違いなく祖父だったが、顔色はよく表現される通り黄土色のような色をしていた。なるほど、こういう顔色になるのかと思いつつ、この色は黄土色というより、豚肉の燻製の表面の色に非常に近いな、とこれまた不謹慎な感想を抱いた。夏場だったので少し匂いがするのではないかと非常に恐れたのだが、そのような腐臭は全くなかった。ただ、目の前で棺桶の蓋が開かれると同時になにかよくわからない匂いが一瞬感じられた。棺桶の中にはドライアイスを入れることもあるらしいので、それだったのかもしれない。

親族が一通り花を詰めると、いよいよ出棺直前の顔を確認できる最後の機会ということで、棺桶のふたに開けられた窓から祖父の顔を見た。先ほど遺体のすぐそばまで近づいたことで紛れもない死の匂いを感じたためか、今度はよく祖父の顔が確認できた。四角い窓越しに見た祖父の顔は、やっぱり私が昔見た祖父の顔のままで、見れば見るほど死んだことが実感できず混乱するばかりだった。前に飾ってある遺影が見たこともないほど元気そうだったこともその混乱に拍車をかけた。
祖父の息子である父や喪主である叔父などが涙するかと思ったが、やはり二人ともどこか受け入れたような表情を浮かべたまま、二言三言話しかけているようだった。私は祖父の死よりもむしろそんな人たちを見ていて、思わず涙が滲んできてしまった。最後に長年連れ添った祖母が顔を確認して、"こんな立派な葬式を挙げてもらって、これで迷わず逝けるね。"と言ったが、これも祖父に話しかけているというよりもむしろ周りで見ている親類を安心させるために言っているように聞こえた。

*1:沢山いればもちろんそれだけお金がかかるが、多い分だけ盛大になる、らしい