乗算の順序論争 私的まとめ

少し前に、下のようなテストの画像が論争となった。

画像を見るにおそらく小学校低学年のテストの答案で、問題となったのは答えがあっているにもかかわらず掛け算の順序のためにバツとなっている点である。
ご存知の通り整数の乗算では可換則が働くので、この式自体は間違っていない。
しかし、この答案では掛け算の記号は単位の数×一単位当たりの数と書かないとマルが貰えないらしく、おそらく同じような体験をしたであろう理系の人々のトラウマを大いに刺激した。

数ヶ月前にこの論争となったとき、議論に参加する人々の論調があまりにも激しく、ほぼ誹謗中傷合戦になってしまっていたのでしばらく距離を置いていたのだが、先日こちらで素晴らしい分析が公開された。

こちらの方は小学校に携わる教育者の方らしく、実際に教科書を資料としてなぜあの回答が×になるのかを非常に細かく分析してくれている。
先日の論争では自分の中でどちらが正しいか結論づけられなかったのだが、このページを見ることで自分なりの結論が出せたように思うのでこちらにまとめておく。

私的まとめ

まず前提として、前述のページによると日本最大手の教科書出版社である東京書店は、

「一単位あたりどれだけであるか×何単位あるか=総数」

であると説明している。また同時に後ほど九九の説明をした後で乗算の可換則についても言及している。

では、なぜ掛け算の定義で乗数と被乗数の順番を定義する必要があるのだろうか。それは、演算の中で可換性がある乗算は特別だからである。
もちろん加算も可換性を持つが、減算・除算では成立しないし、後ほど勉強する各種演算もほとんどの場合非可換だ。
よって、一般的には各種演算は非可換であり、乗算を教えるとき最初から乗数と被乗数の順序はどっちでもいい、とは教えることができない。なぜなら基本的に演算というものは順番に意味があるからだ。そして一般的な乗算としての乗算を教えたのち、乗算が特別に持ちうる可換性について説明する必要がある。

では、上の画像に戻ってあの回答を×とするのかが正しいかについての議論に戻る。
上の問題についてあの解答をする児童は次の2パターンである。

  1. 乗算を理解しておりその可換性についても知っているので順序を意識せず書く児童
  2. そもそも演算の順序の概念がはっきりしておらず、問題を見てそこにある数字を適当に書く児童

理想的には、この回答をした児童一人一人を確認して上の1, 2どちらであるかを判断し、前者である場合なら○、後者なら×をつけるべきだと思う。*1だが、実際には忙しい先生がそのように時間をかけてヒアリングをするのは非常に現実的ではない。ではどうするのか。
私は、○×どちらでもいいのではないかと思う。×をつけた場合前者の児童がいると思われるので、答案の返却時に可換性を理解して書いたものは正解である、と言ってもいいし、逆に○にした場合は後者の児童がいると思われるので、演算の順序をきちんと理解するようこれも説明する必要がある。一番当たり障りのないのは上のような回答をした児童には☆マークでも付けておき、返却時にその問題について説明し、自分が前者なら○に、後者なら×だと考えるよう説明することだろうか。

結論

どれにしても、結局演算の順序の重要性と、乗算が持つ特別な性質である可換性について理解させるべき、というのが、この一連の議論ついての私の結論である。また、それを理解することに比べれば、上の回答に○をつけるべきか×をつけるべきか、といった問題は些細なことではないか、と思うのだ。

*1:ただし前提としている私のスタンスとして、ある問題を学校で教えてない解き方で解いても○をつけるべき、というものがある。が、このスタンス自体がさらにこれと同量の議論を呼びそうなのでここでは正しいかはともかく一旦そう置く